「ThinkPad」といえば、由緒正しい歴史と実績があるノートPCブランドとして、ベテランをはじめとして多くにPCユーザーに知られる存在だ。「ノートはThinkPadじゃなきゃダメ」という熱いファンも多い。そのThinkPadの新シリーズとして登場した「ThinkPad Edge 13”」は、従来のThinkPadのイメージとは異なるコンセプトを持ったモデルだ。
【拡大画像や他の紹介画像】 【表:「PCMark Vantage」の結果】
その概要は2009年11月に行われた製品発表会や2010 International CESで行ったインタビュー、そして、先日掲載した執行役員のインタビューなどでも紹介しているが、果たして、レノボが“Edge”に託したコンセプトはどのように実機に反映されているだろか。AMDプラットフォームの性能とともに、ユーザーの立場から見たThinkPad Edge 13”の姿を見ていこう(製品発表会の詳細はレノボ?ジャパン、「10万円を切る」ThinkPadを発表を、インタビューの詳細は今度のThinkPadはなぜ赤いとU1 hybridとSkylightの日本展開は?──レノボ?ジャパンのデイビット氏に聞いてみたをそれぞれ参照のこと)。
●鮮やかな天面が示すEdgeの役割
ThinkPad Edge 13”の構成は、CPU、OS別に4パターンが用意されており、価格は7万5600円から7万9800円。CPUはThinkPadシリーズ(除く“i”シリーズ)としては初めてAMD製CPUを採用し、Athlon Neo X2 L325(動作クロック1.5GHz)、もしくは、Turion Neo X2 L625(動作クロック1.6GHz)のモデルがある。OSは、64ビット版のWindows 7 Home Premium、もしくは、32ビット版のWindows 7 Professionalがプリインストールされる。グラフィックス機能は、いずれのモデルもチップセットに統合されたRadeon HD 3200を利用する。なお、ThinkPad Edge 13”は光学ドライブを内蔵しない1スピンドル構成だ。
今回の評価に用意したのは、ThinkPad Edge 13”のコンセプトを分かりやすく示している、鮮やかな天面が目立つ「グロッシー?レッド」カラーバリエーションモデルだ。これまでのThinkPadといえば、つや消しブラックのボディが、いかにも質実剛健なイメージを醸し出していた。ところがThinkPad Edge 13”では、天面に光沢感のある材質を採用している。色は今回のグロッシー?レッド以外にグロッシー?ブラックが用意される。
画面サイズは13型ワイドで最大解像度は1366×768ドットだ。ノングレアタイプではなく、光沢感のあるパネルが採用されている。本体の重さは約1.64キロだが、ボディサイズは最薄部で14ミリ(最厚部で30ミリ)と、見た目の印象ではかなり薄型でスタイリッシュな感じを演出するのに成功している。このほか、パームレストと天面にある「ThinkPad」ロゴで「i」のドットが、電源を入れると赤く輝くギミックも取り入れている。
●HDMIも備えるインタフェース、Wi-FiとBluetoothも利用可能
インタフェースは左右の側面に並んでおり、背面には何もない。左側面は、アナログRGB出力とHDMIが用意されるほか、ギガビットLAN、USB 2.0が並ぶ。右側面には5メディア対応のカードリーダー、マイクとヘッドフォン用コンボジャック、2基のUSB 2.0を搭載する。無線LANはIEEE802.11b/g/nに対応し、Bluetooth 2.1+EDRも利用できる。また、液晶ディスプレイ上部には30万画素のWebカメラも装備する。
USB 2.0は全部で3基と多いほうではないが、左右に分かれてあるので使い勝手はいい。左側面のUSB 2.0は、本体の電源がオフでも接続した周辺機器の充電が行える。細かな点だが、本体にACアダプタを接続しておくと充電していることを示すLEDランプが光るが、その場所が側面にあるのが気になる。デザインとしては好ましいが「本体に充電している」ということがすぐに認識できないのは役目を十分に果たしているとはいえない。
メモリスロットとHDDベイには、底面のネジ5本を外すことで簡単にアクセスできる。サポート対象外になるが、メモリとHDDの交換や増設は行いやすいだろう。メモリスロットは2本あり、試用した評価機材では1スロットが空いていた。ThinkPad Edge 13”には最大4Gバイトまでメモリを搭載可能だ。
●アイソレーション?キーボードを採用。最上段レイアウトに注意
「ThinkPadといえばキーボード」というユーザーは多い。しかし、ThinkPad Edge 13”ではキーボードが従来のThinkPadシリーズから大きく変わっている。まず大きな違いが、キーとキーの間にすき間を設けた、いわゆる「アイソレーションタイプ」のキーボードを採用したことだ。また、従来のThinkPadは一部のモデルを除いて通常7段にキーボードを並べるが、ThinkPad Edge 13”では6段に変更されている。このようにレイアウトが大きく変更されたキーボードだが、キータッチは良好だ。キーピッチが広く確保されていることもあって打ちやすく、強めにタイプしてもユニットがたわむなどの問題もない。
最上段のキートップには、ディスプレイ輝度や音量の上げ下げなどの機能を示すアイコンが大きくプリントされている。従来のノートPCでは、最上段がF1?F12キーとなっていて、Fnキーと組み合わせることで機能キーの入力が行えるのが一般的だ。しかし、ThinkPad Edge 13”はこれと正反対で、最上段のキーを普通に押すと機能キーとなり、Fnキーと組み合わせることでF1?F12キーとして利用できる。
レノボ?ジャパンの説明によると、F1?F12よりも機能キーを使うことのほうが多い初心者ユーザーに配慮して、そちらに合わせてきたということだ。ただ、エディタや日本語入力などでF1?F12を頻繁に使うユーザーも多い。BIOSで、単独で利用できるのを機能キーからF1?F12キーに変えることも可能だが、この仕様はベテランが多いThinkPadユーザーで賛否が分れそうだ。このほか、最上段のキー配列で右端の並び順がIns、Del、Home、Endの順番になっているのも気になるところだ。Home、EndよりもDelキーのほうが使用頻度は高いだろうから、Delキーを右端に配置したほうが使いやすいように思える。
また、PrintScreen(PrtSc)キーの配置も変わっている。通常は最上段に配置されているが、ThinkPad Edge 13”では最下段、右Altキーの右隣に配置されている。WindowsではAlt+PrtScキーでアクティブウィンドウの画面キャプチャーが行えるので、その点に配慮した配置だろうか。多くの場合、Fnキーとファンクションキーの組み合わせでPrtScを行うが、このような製品でアクティブウィンドウをキャプチャーしようとすると、Alt+Fn+ファンクションキーと、キーを3個同時に押す必要がある。その点、ThinkPad Edge 13”ではAltキーとPrtSCキーを指1本の同時押しが可能なので、ポインティングデバイスを操作しつつ、アクティブウィンドウをキャプチャーするという動作がやりやすい。
キーレイアウトでは、Page Up(PgUp)キーとPage Down(PgDn)キーにも注目しておきたい。この2つのキーは、それぞれ上カーソルキーの左右に配置されている。カーソルキーよりもキートップを低くしているので、カーソルキーを押そうとしてうっかりPgUp、PgDnキーを押してしまうミスが起こりにくい。
このように、ThinkPad Edge 13”に採用された従来型とかなり違うレイアウトには賛否両論ありそうだが、それでも、細部まで考えて作りこんでいる点において、ThinkPadらしいキーボードといえる。
ポインティングデバイスは、トラックポイントとマルチタッチに対応したタッチパッドの両方を装備している。トラックポイントでは、周辺のキーにくぼみをつけることで、トラックポイントのトップとキートップの実際の高さの違い以上に段差を認識できるようにしている。このおかげで、トラックポイントの高さをこれまでより0.4ミリ下げることができたとレノボ?ジャパンでは説明している。わずかな差ではあるが、液晶ディスプレイを閉じたときにトラックポイントが液晶パネル面に当たるのを防止する効果がある。同時にこの工夫が、満員電車で受ける力などの面方向に受ける圧力に対する堅牢性を確保している。
●AMDプラットフォームの実力は?
今回性能を検証した評価用機材の構成は、CPUにTurion Neo X2 L625(動作クロック1.60GHz)を搭載し、メモリは2Gバイト。レノボ?ジャパンではThinkPad Edge 13”に採用するHDDの型番を明らかにしていないが、評価機材では富士通の「MJA2320BH-G2」(容量320Gバイト、5400rpm、キャッシュ8Mバイト)が組み込まれていた。
PCの総合的な性能を計測する「PCMark05」と「PCMark Vantage」の結果は、PCMark05のCPU項目で3102と、ノートPCでよく使われるCPUとしては、デュアルコアのCeleron SU2300(動作クロック1.2GHz)の3000前後と、おおむね同じ程度のパワーと見ていだろう。
PCMark Vantageの総合スコアは2351で、この値はCeleron SU2300を搭載した「HP ProBook 5310m/CT」のHDDモデルと同レベルとなっている。Core 2 Duoなどと比べると低めになるが、Atomなどと比べればだいぶ高速で、日常的なビジネス用途であればストレスは感じない。
HDD性能は「CrystalDiskMark 2.2」で検証した。HDDは5400回転モデルなので飛びぬけて速い部類ではないが、この価格帯のノートPCとしては標準的な数値といえる。グラフィックスは3D性能について「3DMark06」と「FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3」で検証したが、FF XI Bench3のLowモードが3912で、これは「FINAL FANTASY XI for Windowsをデフォルト状態でとても快適に動作させることができるマシン」となる。この指標はベンチマークが公開された2004年12月当時の基準なので、最新の3Dゲームでは快適な動作が厳しいと思われるが、Windows 7のAeroを使う程度なら十分な性能だ。
バッテリー駆動時間は海人氏の「BBench 1.01」で計測した。BBenchの設定は「60秒間隔でのWeb巡回」(10サイト)「10秒間隔でのキーストローク」で、ディスプレイの輝度は最大、ネットワークには無線LANで常時接続している。測定結果は2時間37分13秒でメーカー公称値の約3.4時間より短いが、ディスプレイ輝度を低めに設定すれば3時間程度の連続稼働は可能だろう。
約1.64キロという本体の重さは、常に持ち歩くにはやや重いが、重量バランスが良好でどこを持っても感じる重さにバラツキがないことと、最薄部14ミリのボディが薄く見えることもあって、実際の重さよりは軽く感じる。ACアダプタの重量は、本体が約260グラム、コードが約70グラムで、本体とACアダプタでギリギリ2キロ以内に収まっているため、ときどき持ち歩くといった程度の用途ならば十分だ。
●“ThinkPad”が初心者にも購入しやすくなった
ThinkPad Edge 13”は、大胆とも思えるほどの新デザインを採用して、これまでのThinPadシリーズよりも華やかな印象になった。その反面、レノボが「ベーシック?ノートブック」と位置づけ、「洗練されたシンプルさ」をアピールしているだけあって、導入された機能はシンプルといえる。従来のThinkPadを愛するユーザーにはアイソレーションタイプで6列配列を採用したキーボードに違和感があるかもしれない。
このように、従来のThinkPadユーザーの基準から見ればThinkPad Edge 13”は大きく変化したことになるが、その一方で、鮮やかなレッドのそろえたカラーバリエーションの天面や、アイソレーションタイプキーボードの採用、そして7万円台という価格は、ThinkPad以外のノートPCを知るユーザーには、それほど意外なものではない。ひょっとすると大きく変わったとThinkPadユーザーが戸惑っているのとは逆に、それほど特徴のない仕様とも感じるかもしれない。グロッシー?レッドの天面もほかのメーカー製品との比較でいえば、突出して派手とはいえない。ただ、「いつかはきっとThinkPad」と思いながらも比較的高い価格で購入をあきらめていたユーザーには、価格低くなって購入しやすくなったThinkPad Edge 13”の登場は歓迎されるだろう。
ThinkPad Edge 13”で用意される構成には、不満に感じる部分もいくつかある。例えば、CPUやHDDなどがBTOでカスタマイズできず、どちらかというと初心者向けのWindows 7 Home Premiumモデルが64ビット版で、上級者向けのWindows 7 Professionalが32ビット版というのもミスマッチではないだろうか。Windows 7 Professional導入モデルはHDDの容量も250Gバイトと少ない。また、このサイズのノートPCならは、光学ドライブを内蔵していても不思議ではない。
ただ、日常のオフィス処理、メール、Webブラウジングに不足しないパフォーマンス、キーピッチが広めで打ちやすいキーボード、タッチパッドとトラックポイントの両方を装備、1366×768ドット表示に対応した13.3型ワイドの液晶ディスプレイ、大画面テレビなどに接続できるHDMIと、通常の利用方法ならオフィスでもプライベートでも不足ない。価格的に手頃で従来のThinkPadよりも武骨さが影をひそめたボディデザインと相まって、対象ユーザーの幅は拡がったことに間違いない。これまで「ThinkPadの世界はマニアックだから」と手を出しかねていたユーザーも敬遠していた人も、Edgeなら気負いなく使い始められるだろう。【芝田隆広(撮影:矢野渉)】
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last wordの意味
11 年前
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